日本赤十字に関する考察

投稿者: 霜山龍志 投稿日時: 2009/03/26 16:23:53

はじめに

赤十字は、スイス人アンリ・デュナンが1859-61年のイタリア統一戦争で敵味方なく戦傷者を助けたことに由来する全世界的な組織で、その理念は公平人道奉仕中立独立単一世界性という七つの原則からなりたっている。

一方日本赤十字社は、1877年に設立された博愛社に始まり、1885年に国際赤十字委員会の許可をえて、日本赤十字社となったものである。

戦前は宮内省の管轄で、名誉総裁に皇后陛下を擁している関係もあり、今まで右翼などの攻撃を恐れて研究や批判の対象にならなかった。

しかし、その組織は官僚組織のように硬直化しており、その理想も実現されていないよう思われる。特に社長はじめ高級幹部に厚生省から天下っている点が世界的にも特異である。

本稿では日本赤十字社に20年間在籍した作者が現実に体験した赤十字を描写してみた。その功罪を今国民の前に明らかにしたい。

著者は小さいころから父親が赤十字病院の院長だったところから赤十字精神をたたきこまれたが、まことに残念なことに、私が実際に職員として体験した日本赤十字社には赤十字精神のかけらも残ってはいなかった。

それどころか、そこは秘密主義と官僚主義の牙城であった。
本著はいわば、赤十字精神への挽歌である。

なお統計数字は本社企画情報室から提供された平成18年度のデータを用いた。

1 赤十字の成り立ち

赤十字はアンリ・デュナンというスイス人が、イタリア統一戦争のソルフェリーノの戦いで敵味方なく戦傷病者を救助したことに始まる。かれはこの功績により第一回ノーベル賞を受賞している。それで、赤十字のマークがスイス国旗の裏返しになっているのである。

またその標章は赤十字以外が使用できないように法律で保護されている。戦争においてもこのマークがついている車両、病院そのほかの施設を攻撃することは国際法違反とされている。

日本赤十字の本社食堂前ロビーにはソルフェリーノの合戦の大きな油絵(増田誠作)がかかっている。よくクリミア戦争のナイチンゲールが赤十字の創始者と思われているがそれは誤りである。

日本赤十字は明治10年に佐野常民が西南戦争の熊本の本営で有栖川宮熾仁親王に勅許を願い出て、博愛社として出発した。熊本には日本赤十字社発祥の地との碑文がある。

その後明治20年に日本赤十字社と改称されて、昭和27年には日本赤十字社法が根拠法として制定された。したがって、日本赤十字社は公的機関ではあるが、民間機関であり、特別法人と呼ぶことができる。

表1に略年表をのせた。
表1 略年表
1877 博愛社創設
1886 ジュネーブ条約に加盟
1887 日本赤十字社と改称、国際赤十字委員会の承認を受ける
1888 各県に支部設置
磐梯山噴火で初めて救護活動
1890 国外(トルコ)に初めて救護班派遣
1901 社団法人として認可
日本赤十字社条例発布
1942 太平洋戦争に際し、捕虜救助委員部を設置
1952 日本赤十字社法制定

2 赤十字の組織と運営

日本赤十字社は日本赤十字社法によって設けられている公益法人であり、ある意味では特殊法人ともいえる。定款があることはもとよりである。日本赤十字社は社員から構成され、個人社員数は1191万人、法人社員数17万である。

本社は東京都港区芝大門にあり、浜松町のモノレール駅から近い。本社のもとに各都道府県支部があり、その下に病院、血液センター、社会福祉施設などがある。

医療センター、産院付属乳児院、血漿分画センター、血漿管理センター、中央血液研究所、助産婦学校は本社直轄である。看護大学は別法人の赤十字学園が経営する。

現在の社長は細川元首相の弟君である近衛忠煇で、国際部長出身である。ちなみに近衛の夫人は三笠宮甯子内親王である。

常勤副社長は元厚生労働省事務次官の大塚義治、もう一人の非常勤副社長は経団連会長の御手洗富士夫である。

名誉総裁は皇后陛下、名誉副総裁は皇太子殿下、妃殿下、秋篠宮妃殿下、常陸宮妃殿下、三笠宮殿下、妃殿下、寛仁親王妃殿下、高円宮妃殿下である。

ちなみに、本社には皇族の仕事部屋があり、使用したことがあるかどうかは別として皇后陛下専用のトイレもある。表2に戦後の歴代社長を示す。

表2 歴代社長(戦後) ( )内は前職
6代 島津忠承 (公爵)
7代 川西実三 (埼玉県知事)
8代 東竜太郎 (東大教授、東京都知事)
9代 林敬三 (住宅都市整備公団理事長)
10代 山本正淑 (厚生省事務次官)
11代 藤森昭一(宮内庁長官、内閣官房副長官)
12代 近衛忠煇 (副社長)

各都道府県の社員から選出される代議員会が最高決定機関で、そのほかに評議員会がある。代議員は223人、評議員は1、198人である。

幹部会議として理事会がある、理事は常勤1名、非常勤60人おり、常任理事は血液事業本部長1人である。支部長は通常知事であり、北海道だけは丸井今井の社長、ついで伊藤組社長と、民間人が支部長となっている。

本社は総務局、事業局と血液事業本部からなり、総務局には人事部、総務部、組織振興部、事業局に救護福祉部、医療事業部、看護部、国際部がある。そのほか監査広報を担当する企画広報室がある。

厚生労働省からいわゆる天下りを受け入れていて、表3に示すが、そのうち副社長の大塚義治、人事部長長田信一、事業本部長西本至、技監加藤恒生が現職である。

前の総務局長の佐々木典夫、前の技監の草刈隆もそうであったが、この二人はとても仲が悪く、業務に支障をきたしていた。

そのほか赤十字学園があって武蔵野、北見、広島などに看護大学がある、その授業料は以前の看護学校が無料だったのに対して高く、年間230万円となっている。

表3 天下り一覧
氏名 赤十字社での役職 官庁での役職
小池欣一 副社長 官房副長官
草刈隆 技監 厚生省難病対策課長
佐々木典夫 総務局長 厚生省部長
加藤恒夫 技監 北海道厚生局長
大塚義治 副社長 厚生省事務次官
西本至 血液本部長 厚生省生活環境局長
長田信一 人事部長 厚生省企画官

赤十字の経営は基本的に日本全国の1、000万人をこえる社員の年額500円の社費で賄われている。社員数は減少の一途であり、平成元年に1、700万人いたのが、現在は1、170万人まで減少している。社費総額も減少の一途である。

平成18年度には社費が80億円、寄付金が75億円と史上最低となった。町内会でまとめて納入している場合も多く、社員との意識のない国民は大変多い。なかには多額の寄付によって金色ないし銀色功労賞社員として特別な表札をかけているものもある。

社費のほかに臨時の寄付を受け入れ、税法上寄付金控除の対象となる。また、50万円で金色功労賞、さらに50万円で社長表彰を受ける。

社費以外の臨時寄付が年間580万人から58億円ほどあるが、そのうち現物寄付が多く、画家が棚卸し財産を減らすための税金の都合で寄付するものも多い。

所蔵美術品は荻須高徳、小磯良平、東山魁夷、梅原龍三郎をはじめとして35点、彫塑8点、陶芸工芸30点、書4件合計77件となっている。毎年各県で全国赤十字大会が宮様出席のもとに開かれ、代表者に表彰状が手渡しされる。

経理状態は表4の損益計算書と表5の貸借対照表から明らかである。資産総額13,888億円は一流企業の驥尾につく位置にある。長期借入金は2、700億円の巨額におよんでいる。

また予算は表6のように4つの会計にわかれ、一般会計、医療特別会計に7、904億円、血液事業特別会計に1、691億円、国際救援活動に23億円、災害救護に24億円ボランティアに18億円、安全救急法に15億円、看護婦養成に62億円、社会福祉に8億円、その他の事業に75億円となっている。

医療と血液事業は基本的に独立採算である。平成18年度では医療事業は233億円の赤字、血液事業は32億円の赤字である

表4 損益計算書
一般会計/社会福祉/医療施設/血液事業/ 合計
事業収入 252億円 102億円 7,462億円 1,367億円9,143億円
事業費用 274億円 105億円 7,601億円 1,344億円9,324億円
事業外収入 5億円 ⊿5.3億円 54億円 63億円
事業外費用 6億円 ⊿2.3億円9億円 72億円 95億円
特別収入 1.5億円 ⊿1.2億円 162億円 5億円 167億円
特別費用 0.1億円⊿4.2億円 95億円 2億円 83億円
収支差額 ⊿1.7億円 28億円 ⊿233億円 ⊿32億円⊿237億円
繰越金 531億円 28億円 ⊿705億円 ⊿146億円⊿294億円

表5 貸借対照表
一般会計/社会福祉/医療事業/血液事業/ 合計

借方
流動資産 173億円 54億円 3,072億円 1154億円 4,453億円
有形固定資産237億円104億円5,764億円 641億円 6,746億円
無形固定資産2億円 53億円 29億円 84億円
投資ほか543億円 1億円 848億円 224億円 2,615億円
繰延資産03億円 297万円 3億円
合計 956億円143億円 10,740億円 2,049億円 13,888億円

貸方
流動負債60億円19億円 1,601億円 213億円 1,893億円
固定負債 115億円 22億円 5399億円 301億円 5,837億円
(長期借入金15億円4億円 84億円 2,598億円 2,701億円)
基金 840億円 101億円3741億円 1,535億円 6,217億円
合計 956億円143億円 10,740億円 2,049億円 1,888億円

表6 予算 (平成19年度)
一般会計 本社 194.5億円
支部施設 228.0億円
社会福祉特別会計 133.5億円
医療施設特別会計 8、630.9億円
血液事業特別会計 1、548.4億円
合計 10、735.3億円

課税所得は表7に示すようにおよそ15億円である、法人税3億円法人事業税1.4億円ならびに固定資産税9、000万円、消費税19億円を国庫に納めている。

表7 税金納付額(平成13-18年)
課税所得 15-19億円
法人税 3-4億円
法人事業税 1.2-1.9億円
法人住民税 5-8千万円
固定資産税 7-9千万円(本社管理分のみ)
消費税 13-22億円

政府からの補助は65億2千万円である。そのうち委託事業でないもの、つまり純然たる赤十字への補助金額を表8に示すが、これは血液事業に大きい。

よく助け合いや援助金が赤十字を介しておこなわれている。本社(血液事業本部を除く)と支部の職員給与は寄付金でまかなわれている。ただし本社部局のうち血液事業本部は特別会計で、また血液事業本部は本社に賃貸料をはらっているという奇妙な構造になっている。

表8 政府補助金
平成13年度 25億3千万円
平成14年度 27億9千万円
平成15年度 25億6千万円
平成16年度 22億2千万円
平成17年度 25億1千万円
平成18年度 21億2千万円

表9に示すように正職員数は55、204人で、平均勤続年数12年、退職引当金積立額509億円である。また本社社屋には日赤会館がある。本社の職員数は377人にすぎず、5万人の法人としては本社機能の弱体が問題である。また本社と支部、各施設の指揮系統にも問題がある。

表9 職員数
本社 384人
支部 709人
医療施設 46,974人
看護師等養成施設 544人
血液事業施設 5、793人
社会福祉施設 800人
合計 55、204人

職員の給与であるが、社長は国会答弁で約2800万円、本社部長事務職が1500万円、病院長(定年時)が平均1、800万円、医師(40歳部長)が1、000万円、看護師40歳婦長)が900万円で、事務職(40歳大卒係長)が700万円である。

昨年まで人事評価がなく、一様な昇給、さらに職員の10%という特別昇給のまわしや特別退職金の支給がまかりとおっていた。最近人事評価が細かくなるとともに、俸給表画細分化された。

退職金派勤続年数による累進制で、25年勤続50か月で頭打ちである。また2006年9月まで出張旅費も実額支給ではなかった。

就業規則や処務規定は本社で定めているが、一部労働基準法に抵触する点があり、それは有給休暇や外出の許可制、兼職禁止、懲戒免職の事後再審査制度である。

病院では副院長以上、血液センターでは副部長以上など管理職であるまたに任免権は病院の副院長以上、血液センターの部長以上などが社長辞令、病院の部長、血液センターの副部長が支部長辞令である。

なお、懲戒免職者は年間平均3人で、職員2万人に1人の比率となっている。その多くが情状重大という抽象的な理由である点が問題であろう。

労働組合は3種あり、正確な組織率は不明だが、病院で高く、血液センターで低い。病院では組織率が5割を超えており、始業時1時間ストなどが恒常的に行われている。また職員の福利厚生はこの規模の法人としては十分でない。

3 国際救援活動

ペルーの日本大使館事件で国際赤十字委員会が活躍したのをご記憶であろう、また北朝鮮との会談、交渉でも南北赤十字関係者が活躍したことは記憶に新しい。

これらが成り立つのは赤十字が中立衡平だと考えられているからである。したがって、中立公平に反するような行為は現に戒めなければならない・

この10年間の主な国際救援活動は、ケニヤ洪水被災者救援、ジャワ島中部地震復興支援、パキスタン北部自身復興支援、スマトラ沖地震支援、ジンバブエエイズ予防支援である。

また中長期的開発協力事業として、インドネシアエイズ対策事業、ベトナム災害対策事業、救急法等普及支援事業を行っている。赤十字通信安否調査も年119件行った。在サハリン韓国人支援事業も行った。

国際交流として海外訪問40件508人。海外よりの訪問129件850人を受け入れている。
NHK海外助け合いでは赤十字を通して81、373件8億3、035万円を寄付した。
なお、国際赤十字委員会に7、700万円、国際赤十字連盟に2億4、600万円を拠出している。

4 災害救護事業

医師1名、看護師5名、事務職2名からなる救護班の総数は980班で、総員は約7千人である。
国内型緊急対応仮設診療所(dERU)15か所の整備をしている。またNBC災害除染セットを17か所に配備する予定である。

有珠山噴火では救護班が合計40班出動した。
こころのケアの研修を行っており、また防災ボランティアの養成をしておる。災害活動辞令集や災害基本データブックを作成した。国際人道法の普及研究活動を行っている。

5 救急法普及事業

あまり知られていないが、救急法、水上安全法、雪上安全法講習を延19、000回実施し、延58万人が参加した

自動体外式除細動器(AED)の普及事業として全国の支部血液センターにAEDを設置した結果合計2、451点が整備された。

6 社会福祉事業

社会福祉施設は29か所あるが、特殊な施設もあり、入所者の延数は2万人である。
地域子育て事業を行い、また訪問ヘルパーを育成した。

ボランティア活動は赤十字精神の真髄であり、またその根底をなすものである。赤十字奉仕団、青少年赤十字、赤十字航空隊などが、病院での案内、献血の助力などの活躍している。青少年赤十字加盟校は10,883校、メンバー数は254万人であり、指導者数は13万人である。

また、ボランティア研修会を行ってその質の向上に資している。
一般国民のなかには赤十字社の従業員をすべてボランティアだと思っている者がある。考えようによってはそうした選択もないとはいえない。

つまり幹部職員を年金取得者や資産家に限定すれば給与を払う必要がなくなるであろう。

7 医療活動

赤十字病院は当初過疎地帯を主に開設され、表10に示すように現在92に上る。北海道では旭川、北見、伊達、釧路、浦河などなど10病院がある。これらは公的医療機関としてわが国の医療に大きな地歩を占めている。

だが、独立採算で、今日の医療経済危機と無縁ではない。救命救急施設29箇所、エイズ治療拠点病院27施設、臓器提供病院34施設、災害拠点病院58施設の指定を受けている。横浜では平成17年に市立病院の経営を受託し、横浜市立みなと赤十字病院として運営している。

救急救命センターが29施設、災害拠点病院が58施設、臓器提供病院が34施設、エイズ治療拠点病院が27施設、感染症指定医療機関が28施設指定されている。

表10 施設数
本社 1 児童養護施設 1
支部 46 重症心身障害児施設 1
病院 92 障害者支援施設 1
診療所 5 視聴覚障害者情報提供施設2
老人保健施設 6 補装具製作施設 1
血液センター 68 特別養護老人ホーム 8
同出張所 139 看護学校 20
乳児院 8 看護大学 5
肢体不自由児施設3 看護短期大学 1
保育所 3 助産婦養成所 1
合計 411

世界的には赤十字が病院を経営しているのは少数派である。医療改革の荒波にさらされ、ほとんどが赤字となっているが、特に辺地の石巻、徳島、名古屋第二、京都第二、大阪の各赤十字病院の赤字は突出している。平成18年度における黒字施設数は24で、赤字施設数は68である。

許可病床数は38、745床で、団体としては国立病院機構に匹敵する。ただし、一日当たりの入院患者平均数は31、778人(病床利用率81%)である。外来患者数は一日平均78、000人である。

医師確保はご多分にもれず問題となっており、地方では多額の医師確保手当てが支給されるが、それでも定員われのところがあり、さらに医師の集団退職で北見赤十字病院など診療科廃止にいこまれたところがある。

本社医療センターの改築(総工費288億円)にあたっては近隣の女学院から丸見えになるなどの抗議を受けている。

また大病院長の多くが大学教授からの天下りなのが気になる。

8 看護師養成

看護専門学校20校で2、032人、助産婦専門学校1校で30人のほか、赤十字学園として、看護大学5校で2、391人。

短期大学2校で473人 養成している。幹部看護師養成センターで幹部看護師に研修を行い、海外に派遣している、ナイチンゲール勲章を受章した赤十字看護婦も10人にのぼる。

従来赤十字学校出身の看護師は赤十字精神をたたきこまれてきたが、今はどうであろうか。高学歴化とともに職場での処遇の改善が必要であろう。

9 血液事業

血液事業は1964年の閣議決定によって、献血の受け入れを日本赤十字社が独占的に委託されてきた。

2003年の安全な血液製剤の安定的供給等に関する法律(新血液法)によって建前として誰でも血液事業に参入できるようになったが、実際上日本赤十字社が輸血用血液の唯一の採血業者であり製造販売業者である。

血漿分画製剤は千歳市の血漿分画センターから原料血漿が3社に売り渡されてそこでも製造されている。世界的には血液事業から赤十字が手を引いたところが多く、欧州ではフィンランド、アメリカの一部、オーストラリアと東南アジアだけが赤十字が血液事業を担当している。

各県の1つずつの血液センターと一部の県で付属センターがあり、総計67となる。献血ルームは139か所にある。正職員数は5、793人である。

看護し、検査技師を「中心に女性が7割を占めるが、所長部長職にはかつて4人がなり、現在は副所長1人、部長1人(いずれも医師)がいるにすぎない。血液センターにおける医師の役割は再検討が必要であろう。

採血は全部のセンターで行われているガ、平成23年までに検査を10か所に、製剤を20か所に集約する予定となっている。

平成18年度の黒字センターはわずか5つ(新潟県、京都府、広島県、鹿児島県、沖縄県)、赤字センターは62である。献血者数は表13に示すように昭和60年の870万人から減少の一途で平成18年には500万人を切って危機的レベルになった。

採血量でみても、平成3年の230万Lから180万Lへと長期低下傾向にある。内訳は成分献血140万人、400mL献血279万人、200mL献血70万人であった。

表14に示すように製剤は赤血球580万単位、新鮮凍結血漿287万単位、血小板767万単位であり、原料血漿は自前でアルブミン45万本、血液凝固代8因子9万本を作っている、そのほか抗HBsグロブリンも一部製造している。

原料血漿は90万Lを集めている。うち65万Lが民間会社(化血研、日薬、ベネシス)に売却されている。売り渡し価格は1Lあたり13、000円となっている。輸血用血液と分画製剤および原料血漿の販売価格が収入であり、年間約1、500億円となっている。

表11 血液製剤出荷数
全血 5、411単位 アルブミン 458、370本
赤血球 5、811、325単位 抗HBsグロブリン 513本
血漿 2、876、111単位 クロスエイトM 96、572本
血小板 7、674、914単位

献血時時の副作用は軽症37000件、重症1553件(献血者の0.8%)となり、VVR(血管迷走神経反応),皮下出血、神経損傷が主なものである(表15)。病院受診者は年間700人に達する。

献血血液には厳格な検査があり、600万人が献血を申し込むが、最終的に製品となるのは460万人分である。検査にはB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、エイズウイルス、ヒトTリンパ球ウイルス、梅毒、ヒトパルボウイルスB19の6種類があり、血液型と不規則抗体も調べて、HIVとパルボを除く本人に通知されている。

表12 献血副作用 ( )内は病院受診数
血管迷走神経反応 38,810件(232件)
神経損傷 469件 (121件)
皮下出血 10,433件 (105件)
クエン酸反応 581件
その他 2,953件 (268件)
合計 53,246件 (726件)

近年血液の安全性が問題となり、厚生省から感染症の遡及調査が要求され、多額の経費と人員をかけて20、395本の血液を調査した結果、270本が個別核酸増幅検査陽性であった。GMPが運用の基本であり、年間インシデント報告数は53、381件であった。

血液製剤による輸血副作用数は年間1、600件(輸血人数の約0.1%)で(表16)、急性肺傷害(TRALI)では年間10人が死亡している。

表13 血液製剤副作用(平成13-18年の合計)
疑い例を含む ( )内は死亡例
輸血後GVHD      52件
発熱反応   1、372件
蕁麻疹       3、315件
急性肺傷害(TRALI) 135件 (32件)
アバフィラキシー 2、108件(9件)
そのほかの非溶血性副作用 448件
血圧低下       341件 (8件)
溶血性副作用 164件 (5件)
呼吸困難       756件 (27件)
そのほか   20件(12件)
合計                8,721件(93件)

これらの防止のため、初流血の除去と白血球除去を実現した。
血液センターは厚生労働省の委託を受けて骨髄バンクのドナーの登録とHLA(ヒト白血球抗原)検査を担当しており、目標の30万人に平成19年末に到達した。

また臍帯血バンクネットワークの事務局も本社にある。臍帯血バンク自体にも北海道、東京、福岡で関与している。

10 問題点と将来展望

赤十字の問題点はその理念と人材、財務の3点にある。理念についていえば、7つの精神の一部は具現されておらず、情報公開の乏しさは官庁並みである。著者が68件の情報公開を求めたが、部分開示を含めても18件27%であった。

情報公開こそ国民の信頼を得る道であるという現代企業の常識を欠いている。事業の透明性、危機管理体制の整備が急務であろう。赤十字の根本は医の心であるが、法律と通達で仕事をしようとしている点、官庁と同じ欠点をもっている。

寄付者や献血者の減少を食い止める道も情報公開にある。つまり、大口寄付者に対してはあなたの寄付でこういう事業ができましたと、個別に礼状を送るのだ。

また、献血者にはあなたの献血はどう使われ、どこで誰が輸血を受けたかを通知するのである。そうすれば、次回の寄付や献血への動機づけとなる。額に応じてただバッジを贈呈するだけでは気持ちがこもっていない。本当に感謝しているのならこれくらいきめ細かな対応をすべきであろう。

人材は首脳部が天下りで、生え抜きの士気をそいでいる。また本社規模が小さく、二流大学採用であるため、地方の優秀な人材を集めて、少なくとも1000人規模の本社機能を形成しなければなるまい。

また赤十字の公共性について監督官庁にも誤解があり、公共機関である以上採算性を無視した部分を寄付金でまかなっているということを忘れてはならない、したがって、血液事業も製薬会社のような一業者ではなく、公共事業であると銘記すべきであろう。

病院も過去においては過疎地の巡回医療に力を注いでいたが、医療経済の荒波にさらされて、そのようなことが無視されている現状は、赤十字病院の使命として問題であろう。

組織は、その一体性に欠陥があり、本社と支部、都道府県の関係、とくに不動産と人事に問題があり、施設長のなかには支部をことさらに無視するものがいることは問題であろう。定款では支部長は支部の業務を管理するとあるが、支部処務規定には支部長が名誉職だという表現があり、矛盾している。

医療従事者の国際派遣は成果をあげているし、国内の災害派遣も効果をあげている。看護師養成は学士養成にかたむいているが、授業料の問題から優秀な生徒があつまらないことが危惧される。

安価な授業料で看護師を養成する点に赤十字の使命があったはずだ。人材育成として研修の強化が必要である。

しかし、医療や献血を赤十字が担う必然性はもはやない。とくに後者については製造業としての意識ガ強く、医療を担っているという理念が足りない面がある。

佐々木総務局長が採血を除いて赤十字から分離しようとしたが、赤十字血液センター連盟(血液センター所長の団体)の圧力で失敗した。世界的にも赤十字は血液事業から撤退している。献血者の募集の部分だけは赤十字にふさわしいといえよう。

日本赤十字社には赤十字医学会と血液事業学会の二つの学会がある。これは医療と血液事業が異種のものだという誤った観念に基づいており、統合すべきであろう。

財務は平成18年度の損失が237億円で、累積赤字が294億円であるから通常の会社なら役員交代、銀行管理ということになる。

病院や血液センターでは必ずしも地方で赤字が多いわけでない、経営努力の問題であろう。それをブランド名でいまなおプライムレートで金を借りているが、どこまでそれが続けられるか・

基金というのは株式会社の資本金にあたるので、一応自己資本率は48%であるが、その内容を精査すると問題がある。寄付金の年額が150-200億円であること、また退職引当金が正規に積み立てられてない疑いがある点だ。

さらに収益的収支ではキャッシュフロー見地からは現業部門の当座経費が2か月分程度であり十分とはいえない。資本的収支と原価償却にも若干の会計上の問題があり、官庁会計方式から企業会計方式に是正すべきであろう。

日本赤十字社法第5章は厚生労働大臣の監督権をうたっているが、これは赤十字憲章および日本赤十字社法第3条の自主性の尊重に照らして問題であろう。

血液事業本部は本部長を常任理事として独立したとされるが、人事財務が総務局の支配下にある。また血液事業における厚生労働省の監督は度を越していると指摘されている。

以上から言えることは、日本赤十字社は理想が実現しきれていない傷ついた巨象ではないかと言うことである。それを矯正するためには国民的な論議と改革が必要である。なぜならその運営資金は国民の浄財に多くを負っているのだから。

(追加)血液事業特別会計の赤字は平成19年度には白血球除去赤血球の薬価が十分意上がったことで解消したが、独占企業だからといって、安易に薬価で赤字を補填する政策は誤りであり、自助努力が要求される。

文献
1) 職員研修テキスト 1998年(日本赤十字社)
2) 日本赤十字社100年史 1985年(日本赤十字社)
3) 霜山龍志:新版今日の輸血 2006年(北海道大学出版会)
4) 日赤美術品集 1986年 (日本赤十字社)
5) 霜山龍志:血液事業の現状と展望 2007年 (血液事業)


これまでのコメント

  1. 葛飾赤十字産院 :

    葛飾赤十字産院で子供を産みましたが、医師や助産師がしっかり赤ちゃんの体のチェックをしてくれませんでした。それを指摘すると、子供の体を撮影したビデオテープを確認したいと言われて、貸したところ、ビデオテープを損傷して映像を壊されてしまいました。いまだに弁償を受けていません。本質的に問題の多い組織と思います。

  2. かこち顔 :

    そりゃ問題ですな
    本社企画広報室に苦情を言いましょう

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